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緊急通報の入口設計 110番と119番が分け合うトリアージ

© Synthesis

夜の交差点で事故に遭遇したとき、日本の通報者は最初の判断として110番か119番かを自分で選ぶ。そのあとに続く聞き取りや出動判断は、警察の通信指令室や消防の指令センターといった通報受理センターが担う。入口で番号を分けておく設計は、結果として、緊急時の優先度付けの一部を市民が、残りを運用側が担う構造だ。

110番と119番 分かれた入口としての設計

日本の緊急通報番号は、警察と消防が別組織として再編された経緯と、黒電話の物理的な制約の影響を受けている。火災通報は当初112番として始まり、その後ダイヤル誤接続を避けるため119番へ変更されたとNTT東日本は説明している(Source: NTT東日本)。警察用の110番は戦後に導入され、制度改正を経て全国で110番に統一された経緯を警察庁が示している(Source: 警察庁)。

この流れのなかで、事件や交通事故は110番、火災や救急は119番という分かれ方が定着し、通報者は入口番号の選択を自分で行うことになった。警察と消防の両方が必要になる事案でも、入口段階ではどちらか一方の番号にしかつながらないため、通報や対応が重なりやすい。結果として、入口でどの番号にかけるかという一次判断は市民側に置かれ、その先の聞き取りや出動判断を通報受理センターが担う役割分担が続いている。

112番圏 統合された入口が引き受ける迷いと時間

雨の街頭でスマートフォンから緊急通報が送られ、指令センターのオペレーターへ音声データが移送される様子。110番・119番の入口設計とトリアージの構造を示すイメージ
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112番を使う国々では、通報者は番号を一つだけ記憶し、その先の選別を統合型の通報受理センターとオペレーターが担う。イタリアの一地域では、緊急通報のおよそ50%が入口の段階で完結し、警察や消防など現場に出動する機関には送られない案件だとAREUが報告している(Source: AREU)。入口で完結するのは、緊急性がない問い合わせや誤発信などであり、その層を通報受理センター内部で処理する設計によって、現場に送られる件数が抑えられている。

米国の複数都市を対象にした調査では、通報を通報受理センターから別のセンターへ転送するたびに、通報処理に中央値41秒の時間が追加されるとJAMA Network Open掲載の研究は示している(Source: JAMA Network Open, 2022)。112番のように入口番号を一つにまとめる方式は、通報者が覚える番号を減らし、番号選択の迷いを小さくすることを目標とする一方で、内部ではこうした転送時間の増加を前提とした運用になる。

118番の誤通報 入口で支えるコストと責任配分

二つの受話器へ分岐する配線と砂時計の静物。112番統合や転送時間、過剰トリアージのコストを可視化するコンセプト
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118番は、海上での事件・事故などに関する緊急通報を海上保安庁が受理する番号である。2024年の統計では、この118番への通報全体のうち約99%が無効とされ、その多くがスマートフォンの誤作動や無音の発信であり、実際には海難や犯罪などには至らなかった通報だったと海上保安庁は示している。実害がなかった通報でも位置確認や折り返しに時間と人手がかかり、危険の見落としを避けるために無言の電話にも対応している。誤操作のリスクは通報者側にあっても、その処理は入口側の通報受理センターで行われる。

救急医療の国際研究では、医療現場で患者の救急度を分類するトリアージにおいて、本来は優先度が低い事案を高く判定してしまう過剰トリアージ率が26-45%であり、現場資源の占有や真に緊急な案件の遅延リスクを高めると報告されている(Source: Resuscitation, 2019)。専門職であっても境界事例では判断が揺れやすいという前提に立つと、日本の番号設計は、その入口の段階でどの番号にかけるかという一次判断を市民に委ねているのに対し、112番圏では入口での選別や誤通報処理を通報受理センター側がまとめて担う仕組みになっている。番号を迷う時間と、誤発信の後始末にかかる時間や人手が、それぞれどちらの側に寄せられるのかという分かれ目が、この番号の設計に静かに組み込まれている。

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Synthesis Editorial Team

東京を拠点に、ナラティブを超えた構造を探求。出版やメディアでの経験をもとに、ニュースやカルチャーの背後にある社会通念に注目し、世界を少し違う角度から読み解いていきます。